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せめて、今夜だけ…
第14章 火花
「翔太さんが社長になっちゃったらこんな風に食事なんて出来なくなっちゃうしね~」

…今だけは、仕事から逃げたい。
出世やBijouxの今後なんかも考えたくない。
仕事がこんなに辛く感じたのは初めてだ。

先輩に背中を向けたまま俺はレジへと急いだ。
先輩に顔を見られたくなくて…。
きっと今の俺は酷い顔をしてる。
嫉妬と辛さで、きっと酷い顔になってる。
先輩にフラれたあの夏の日よりも…。

魚月が絡むと正気ではいられない。
そんな余裕のない顔を先輩に見られたくない。


「ご馳走さま♪」

暖簾をくぐり外に出ると、酔いが一気に覚めてしまいそうなぐらいに冷たい風が吹き抜ける。
さっきまで暖かな店内にいたせいか余計に寒さが堪える。

「今日は付き合ってくれてありがとう」
「こちらこそ。焼き鳥でいいならいつでも」

こんなリーズナブルな店で女性と食事をしたのは初めてかも知れないな。
ほろ酔い気分が抜けないのか先輩は終始楽しげな笑顔を浮かべている。

「それじゃ、私はこっちだから。じゃあね!」

先輩は俺のマンションがある方とは逆の方へと歩き出そうとしている。
先輩の自宅がどこにあるかは知らないが、夜道をじゃん1人で帰すわけにはいかない。



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