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せめて、今夜だけ…
第14章 火花
きっと、さっきの俺の反応を見て全てを悟ったのだろう。
あの時、魚月だって俺の姿を見つけるなり困ったような表情を見せていた。
気付いてなかったのは俺と翔太だけ、という事か。

「魚塚君…」

いつの日も、先輩には敵わないな。
隠し事も何も出来ない。









―――――「すいません…」










喉の奥から絞り出した悲痛な声。
胸の奥が痛い。

その謝罪は…、魚月へのものか、魚月を愛してしまった俺自身へのものなのか。



「ほ、本気なの…?」



俺のその謝罪を聞いた瞬間、先輩の声も微かに震えていた。
それもそうだ。
自分の後輩が、自分が仕える社長の息子の婚約者に惚れてるなんて。
こんな事が社長か翔太の耳に入ってしまえばタダでは済まない。
だけど…

「俺は…、魚月が…っ」

俺の口は止まらない。
先輩への気づかいも、隠し通そうという思いも砕け散ってしまったかのようだ。

考えてみれば、この想いを誰かに告げた事なんかなかった。
自分の中に隠して来た想いだったから。
絶対、誰にも知られてはいけない想いだったからだ。

「何…、何考えてるのよ…っ!相手はあの市原社長の息子さんよっ!ただの一般人とは訳が違うのよっ!?」

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