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せめて、今夜だけ…
第15章 人魚は海に還る
「今は…、ちょっと…」
「あ~…、だよなー…。社長秘書ともなれば忙しいもんなぁー…」

桐谷に本当の事を言ったらまたうるさいから。
それに、合コン相手なら先輩じゃなくても他にいるだろうが…。
どこまで合コン好きなんだよ、こいつは。

桐谷を上手く誤魔化してる間に就業ベルが鳴った。
悩んでる暇はない。
俺にはやらなくてはいけない仕事があるんだ。








―――――「と、いうわけで、業績向上の為に今よりも一層力を入れて営業に励んで貰いたい。ついては…」




朝はいつも、部長の挨拶と共に今後の目標や業務連絡から始まる。
その間、俺達社員は一斉に立ち上がり部長の話しに耳を傾ける。
この話しがまた長ったらしいのだ。

「今日は偉く長いな…」

ヒソヒソ声で桐谷が俺に話しかけてくる。
部長の話しを長ったらしいと感じているのは俺だけじゃないということだ。
恐らく部署の人間全員が思っているだろう。

「いつもの事だ」

業績向上と言っても、特段変わった事をやらせようと言うわけではない。
早い話しが今まで通りでいいと言うこと。
毎朝毎朝話す内容もだんだんと尽きて来る。
朝のミーティングという形だけでも取って置きたいのだろう。
それは社員一同、全員がわかってる。
なので、こちらも形だけでも聞いているふりをしているだけに過ぎない。

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