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せめて、今夜だけ…
第15章 人魚は海に還る
―――――――「はぁ、はぁ…」
就業中だというのに、俺は適当な嘘をついて部署を飛び出した。
一目散に向かったのは…、屋上。
この時間ならみんな業務に集中していて誰も来ない。
電話をかけるにここしかないのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
一気に階段を駆け上がったせいで息が切れる。
屋上のドアを空けるとそこにはやはり誰もいない。
冷たい風が吹き荒れているだけ。
「はぁ、はぁ…」
震える手でスマホを取り出し魚月に電話をかける。
今頃翔太と一緒に式の日取りや段取りを決めているかも知れない。
招待客や引き出物の事を話してるかも知れない。
今電話をかけたらヤバいかも知れない。
そんな考え、これっぽっちも浮かばなかった。
ただ、とにかく魚月と話しがしたかった。
何でだよ、魚月…。
わかっていた事だけど、いきなり過ぎる…。
俺はまだ、魚月を諦める決心もついていないというのに。
プルルルルル、プルルルルル、プルルルルル…。
スマホを耳に当てると、呼び出し音が鼓膜に響く。
電話に出てくれるかどうかわからない。
待ってるこの時間すらもどかしい。
ただひたすらに願った。
話しがしたい…、電話に出てくれ…っ、と。