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せめて、今夜だけ…
第15章 人魚は海に還る
「幸せにしてもらえ…」
『………。』

魚月の願った結婚ではないが、夫婦になればあの翔太でも優しくなってくれるかも知れない。
魚月と翔太、互いに多少の情ぐらいは芽生えるかも知れない。
夫婦なんてきっと、そういうものだ。

「心配しなくても、あの写真はちゃんと消す」
『ありがとうございます…』

いつか保存した魚月の写真。
今もスマホに残してある。
結婚してしまうなら魚月を脅すネタとしてはもう使えない。
元より、最初から拡散させる気なんかなかった。

これでもう本当に最後だ…。
魚月と話すのも、魚月に電話をかけるのも…、これが最後だ。



最後…。




「最後に食事でもするか?」
『え…?』
「最後ぐらいは紳士に送り出させて欲しい。泣かせてばかりだったから」




最後に思い出が欲しい。
乱暴にしてばかりだったが、最後ぐらい綺麗な思い出が欲しかった。
魚月の泣き顔じゃなく、ちゃんとした笑顔で別れたい。

「あの写真、お前の目の前で消した方が安心だろ?」
『………わかりました』

今までの事もあるし断れると覚悟していたが、魚月の返事は意外にもOKだった。
ホッと胸を撫で下ろした。

「何が食いたい?最後ぐらいは思い切りワガママを言ってくれて構わねぇよ」
『別に、どこでも…』


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