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せめて、今夜だけ…
第15章 人魚は海に還る
鼻の奥にツンッと込み上げて来る涙を我慢するので必死だった。
今夜、魚月に会うのも最後になるのかと思うと、情けないが涙を堪えきれなかった。
しかし、魚月に悟られないよう必死に涙を我慢した。
笑顔で見送りたいと言っている本人が泣いてる場合ではない。

「じゃあ、場所は――――」

最後ぐらいはいい思い出を残したい。
魚月の脳裏に残っていたい。
それは魚月の為じゃなく自分の為だ。
魚月のワガママを聞いてやると言いながら本当は俺が魚月に会いたい。

魚月に今夜の食事の場所と時間を伝えた。
夜の海が見えるレストラン。
この街から少し離れた場所だから知人の目に止まる事はないだろう。

『わかりました。その時間に伺います』
「待ってる」






最後…。
本当に最後なんだ…。

魚月と会うのも、魚月と食事するのも…。









冷たい風が吹き荒れる中、俺は仕事に戻るために電話を切った。








本当は、切りたくなんかなかった。









魚月…っ。
魚月…っ!

ガシャンと、フェンスを掴み、込み上げて来る涙を堪えきれなくなってしまった。

マジで情けねぇ…。
この目じゃ部署に帰れねぇし、帰ったとしても桐谷に追及されてしまうな…。


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