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せめて、今夜だけ…
第15章 人魚は海に還る
魚月との思い出が頭を駆け巡る。

いい思い出ばかりではないが、初めて魚月に会ったSirène。
魚月は俺の失礼な申し出に片手を払って断った。

プライベートの魚月と出会した近所のドラッグストア。
あいつ、髭反りの替刃なんか買ってたな。

そして、あの公園…。
魚月を抱き締めて、関係を作ってしまったあの夜…。


どれもこれも、忘れたくない思い出だ。
全部覚えていたい。
この思い出や記憶に変わる宝物なんかない。



「………くっ」

零れ落ちる涙を堪えられないでいると












「…諦めは付いた?」





―――――――!?







背後から聞こえてきた女性の声。
誰もいないと思っていたが、俺以外にも誰かいるのか?
頬を伝う涙を片手で拭い振り返ると、そこには






「先輩…」









屋上のドアにもたれた風間先輩の姿が。

「な、何で…、先輩がここに?」
「ホテル事業の話し合いに決まってるでしょ?しばらくはBijouxさんに出入りする事になりそうよ」

あぁ、そう言えばそうだな。
あの話しはまだまだ続きそうだしな。
つーか、先輩いつからここにいたんだ?
泣き顔、見られちまったかな…。

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