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せめて、今夜だけ…
第15章 人魚は海に還る


チンッ…、という音と共にエレベーターは目的地の階に到着。
エレベーター内でいろいろ考えていたが、今にして思えばここは地上よりだいぶ高いな。
標高何メートルぐらいあるんだ?

エレベーターから降りると、目の前には待ち合わせをしているレストラン。
この階はフロア全てがレストランみたいだ。
薄暗い照明、テーブルには仄かに光るキャンドルがあるだけ。

「いらっしゃいませ」

レストランに入ろうとすると、若いボーイが俺に話しかけて来た。
どうやらこのレストランのボーイのようだな。

「あの、予約をしていた者です。待ち合わせをしてるんですが…」
「どうぞ。こちらの席です」

ボーイに案内されるままに店内に通される。
待ち合わせ、とは言ったが魚月はもう来てるんだろうか?
誰かと勘違いしてるんじゃないだろうか?

丸いテーブルが並ぶその隙間を縫うようにボーイに導かれて行く。
周りの客をチラチラと観察してみるが魚月がいそうな気配はない。
周りは男女のカップル、銀婚式を迎えたような夫婦、やはり特別な雰囲気が漂っている。
特別な事でもなければこんな高級レストランになんて滅多に来ないだろう。

俺も今夜は特別だ…。
ここにいる客とは違って特別な幸せを感じる為じゃない。
魚月への気持ちに蹴りをつけに来たのだ。


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