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せめて、今夜だけ…
第15章 人魚は海に還る
「こちらでございます」
「………っ」

通されたのは窓際の、海が1番良く見える席。
予約の電話を入れた時「海が見える席」とは伝えて置いたが、確かに海は良く見える位置ではある。

「ごゆっくりと」

そう言って俺に一礼した後にボーイは立ち去った。

確かに窓際の席で、雪で曇ってはいるが海も、その向こうの夜景もよく見える。
しかし、俺の瞳に映ってるのは、海でも夜景でもない。





俺より先に到着し、先に席に付きながら景色を眺めている女性…。









「魚月…」











予約していた席に先に座っていたのは魚月だった。
名前を呼ぶと魚月はゆっくりと振り返った。









「こんばんわ」











真っ赤なマーメイドドレス、髪もアップヘアーで、憂いを帯びたような気怠い瞳。
テーブルの淡いキャンドルの炎に照らし出された魚月の姿。
いつもの柔らかな雰囲気と違って今夜の魚月は一段と美しかった。

「待たせたな…」
「いえ。ついさっき着いたところです」

見栄を張って冷静を装うが、俺の心臓は今にも壊れそうだった。
怖くて、辛くて、でも今夜の魚月はとても可愛くて、愛しくて
俺より先に俺の心臓が泣き出しそうだ。

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