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せめて、今夜だけ…
第15章 人魚は海に還る
「今夜は翔太は?」

結婚する予定の女が別の男と食事をしてるなんて知ったら大変だ。
それでなくとも式の準備で忙しい中わざわざ来てくれたのだ。

「今夜はお仕事が忙しいみたいで…」
「そうか」

席に座ると…、真正面から見た魚月は、今までにないくらいに美しく見えた。
その美しさは思わず俺がゾクッとしてしまうほどに色気を帯びていた。

「珍しいな。そんな大人びたドレスなんて」
「昔、お店で着てたドレスですよ。久しぶりに引っ張り出したんです」
「へぇ」
「…もう、着る機会もなくなりますから」


…………。

魚月の言葉1つ1つが俺の胸を締め付けて来る。
それは、魚月が本当に結婚してしまう事を指している。
本当に…、いなくなってしまうのだと痛感する。

「さて、何を飲む?ワインでいいか?」
「お任せします」


ダメだ、耐えろ。
ここで取り乱したらせっかくの夜もレストランも台無しだ。
魚月との思い出を残したいんじゃないのか?
最後ぐらい、いい思い出が欲しかったんじゃないのか?

必死に自分を震え立たせ、自問自答を繰り返しながら笑顔を作った。
魚月はどう思ってるかわからないが、俺の精神は今にも決壊してしまいそうなぐらいに危ういのだから。


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