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せめて、今夜だけ…
第15章 人魚は海に還る
しかし、幸せな時間なんて長くは続かない。
幸せな時間はあっと言う間に過ぎてしまうものである。
食事を終えデザートも終えて、グラスを空けた時にはお互いすっかり酔いが回っていて
窓の外の雪もいつの間にか止んでいた。

「ごちそうさま…」
「あ、あぁ…」

周りを見れば食事を終えた人達が次々と帰って行く。
俺達も食事を終えたのだから帰らなくては…。

「………。」
「………。」

気まずい沈黙が流れる。
俺も魚月もわかってるんだ。
この席を立ったら…、本当に最後だと言うことが。

伏し目にしていた顔を少し上げると、キャンドルに照らされた魚月の瞳、表情がぼんやりと浮かび上がっている。
憂いを帯びたその表情。
息を飲むぐらいに綺麗に思えた。

この時間が終わるのが名残惜しい。
俺の事を憎んでいるはずの魚月もなかなか席を立とうとしない。
こんな俺にも少なからずの情はあるという事か。

「少し…、散歩でもするか?」
「え?」

口火を切ったのは俺からだ。
いつまでもここにいる訳にもいかない。
これ以上魚月といたら、せっかくの決心が揺らいでしまう。
しかし、今すぐに席を立つ度胸もない。
女々しい男だな、俺も。

「雪も止んだみたいだし、空気が澄んで海もよく見えるようになってるだろうし」


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