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せめて、今夜だけ…
第15章 人魚は海に還る
すぐ隣は海で潮風が吹き抜けて来る。
寒さは感じたが、最後の最後に魚月と2人切りになれた。

「寒くないか?」

俺はコートを着てるから大丈夫だが、魚月は大丈夫だろうか?
魚月も厚手のコートを着てるしスヌードも着用してるみたいだが、コートの下は薄手のドレス。
魚月の体温を心配していると

「大丈夫です。季節とか関係なく毎晩薄手のドレスで働いてたんですから」
「あぁ、Sirèneか…」

理由は違えど、お互いに今夜が最後だということはわかってる。
すぐそばは海だというのに、お互いに海なんか見ていない。
ただ、短い会話を繰り返しながら夜の海沿いの散歩コースを歩いている。
散歩しようと言い出したのは俺なのに、何も喋れない。


「そう言えば…、初めて魚塚さんに会ったのもSirèneでしたよね」

俯いたまま何も話せないでいる俺を助けるように、魚月が口を開いた。

「あ、あぁ、そうだったな…」

何を唐突にと思ったが、魚月も俺との思い出を思い出してくれてるのだろうか?

「初めは"失礼な女だな"としか思ってなかったよ」

タクシーに乗る際に、俺の手を振り払ったのだから。

「あ、あれは…、魚塚さんが失礼な事を言ったからですよっ!」

あー、そう言えば…、一晩付き合ってくれたら礼はするとか何とか言ったような気がするな…。

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