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せめて、今夜だけ…
第15章 人魚は海に還る
「たまにセクハラっぽいおじさんとかはいますけど、あんなにハッキリ誘われたのは初めてです。普通誘います?初対面の女を…」

返す言葉もない…。
あの時は強かに酔っていたのもあるし、女性というものに何の期待も持っていなかったから。

「あぁ…、あん時はマジですまん…」

魚月にそう言われたら返す言葉もない。
確かに初対面の男にあんなこと言われたら怒るのも無理はないな。

「でも、私も強がり言ったんですけどね…」
「強がり?」

さっきまで口数が少なかった魚月だが、だんだんと口数が増えていく。
そして、あの日の出来事を思い出しながら話してくれた。

「お金は大事だってこと、本当は誰よりも知ってたんですけど、そんなものに振り回されたくなくて、つい」



……あの時、魚月は俺の手をはねのけた。
お金で買えないものもあるんだ、と。
俺は金に物を言わせて魚月を買おうとした。
だけど、その時から魚月は金の怖さを知っていたんだ。
金に物を言わせた翔太と婚約してしまったのだから。
俺も…、翔太と同類だったというわけだ。

それを思うと、俺はこれ以上何も言えなくなってしまった。
魚月に申し訳なくて、自分が許せなくて…。

「魚月…」
「まぁ、今更言ってもって感じですよね。あはは…っ」

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