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せめて、今夜だけ…
第15章 人魚は海に還る
潮風が魚月の髪を撫でていき、その度に魚月の軟かな髪がふわふわと舞う。
魚月の髪の香り…、初めて魚月を抱いたあの夜から何も変わっていない。




本当に…、今夜が最後なのだ。
魚月と会うのは今夜で…。





俺の胸の中で、ずっと押さえ付けていた想いが首をもたげるように動き出す。
これを言ったら最後、魚月を困らせるだけだと思いずっと我慢して来た言葉。
悪魔に魂を売ったその日から、ずっと…。
ずっと言ってはいけないと思っていた言葉。

「冷えて来ましたね…、そろそろ行きましょうか…?」





――――――――っ!





心臓が、破裂しそうなぐらいに痛い…。
もうすぐ魚月とは本当の別れだ。
だから…、我慢しなくてはならなかった。
言ってはいけない、伝えてはいけない、と
崩落しそうな理性を必死に保とうとしていたのに…。

「魚塚さん?」

















「好きだ」














その言葉を発したあと、ハッと我に返った。
俺は今、何を口走ったんだ…?

しかし、1度崩落した理性と気持ちを塞き止めるなんて無理な話しだ。

「う、魚塚さ…」

俺の少し前で、魚月は驚いたような顔でこちらを見ていた。
どうやら魚月の耳にも今の声は届いていたらしい。



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