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せめて、今夜だけ…
第15章 人魚は海に還る
体が震えて、心臓が高鳴って…
今にもぶっ倒れそうだ。

それは、俺がずっと…、ずっと望んでいたものだ。

「魚塚さんの事が…、好――――――」



波の音も、風が吹く音も、遠くから聞こえる雑踏も、もう何も聞こえない。

聞こえるのはお互いの心臓の音だけ。

まるで世界に俺達2人しかいないみたい。

俺を取り巻く周りの事、魚月が翔太のものになってしまう事、そんなもの全部忘れてしまった。
ただただ、魚月を抱き締めていた。

魚月の口からの言葉を待つより、俺の体は先に反応してしまった。

幸せ過ぎて、嬉しすぎて…。

「う、魚塚さ…」



ずっと思っていた。
魚月に気持ちを伝えたら魚月を困らせてしまうと。
抗えない運命に翻弄されている魚月にこれ以上負担をかけたくないから、と。

でも、言いたかった。
魚月に俺の気持ちを吐き出してしまいたっかった。

でも、俺の気持ちを知った魚月に拒絶されるのが怖かった。
負担をかけて迷惑がられて、魚月に嫌われるのが怖かった。
それなら、俺の気持ちは封印して、どんな事をしてでも魚月のそばにいたかった。
それが例え、魚月を傷つけてでも、魚月の脳裏や体に染み付きたかった。
焼き付きたかった。

離れ離れになっても、魚月の記憶の中に残りたかった。

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