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せめて、今夜だけ…
第16章 泡沫に泳ぐ魚
「くっ、ひっく…」
「……っ」


魚月の涙を見るたびに、俺の中の欲望が暴れだす。
と同時に、胸が締め付けられる。
魚月をめちゃくちゃに抱いてるのに、魚月をこんなにも近くに感じられてるのに

今夜が最後なんだ…。
最後に見る魚月の顔が泣き顔なんてな…。

「魚月…」
「あ…っ」

今にも壊れそうな魚月。
背中に腕を回して、ゆっくりと、壊さないように魚月を抱き上げる。
このまま抱き締めたら折れてしまいそうだ。

今の魚月はそれほどに儚くてか弱い。

でも、このまま思いのままに抱き締めてしまいたい。
抱き締めて、壊してしまいたいのに。

「あの、う、おつかさ…?」

動くのをやめて、自分を抱き上げた俺を不思議に思ったのか魚月の表情が一瞬素に戻った。
崩壊していた人格が甦ったのだろう。

「魚塚さん…」

状態を起こした魚月の瞳から涙が溢れ頬を伝う。
きっと、魚月も同じ気持ちだ。



今夜が最後……―――――。





「魚月…」

俺は魚月が好きだ。
このまま魚月を奪いたかった。
だけど、何もかもが遅すぎた。
出会うのも、気持ちを伝えるのも、全部。



「幸せになれよ」




魚月の顔を見上げ、今の精一杯の気持ちを伝えた。
今の俺に言えるのはこの一言しかなかった。


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