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せめて、今夜だけ…
第16章 泡沫に泳ぐ魚
「魚塚さん…」


さっきとは違う涙が魚月の瞳から洪水のように溢れていく。
まるで涙腺が決壊したかのように…。

「誰よりも…、幸せに…」
「……はい」

これ以上、俺の気持ちを押し付けられない。
押し付けたところでどうにもならない。
現実は変わらない。

「魚月が好きだよ…」
「……はい」

でも、魚月の幸せを願いたい。
誰よりも…、他の誰よりも幸せになって欲しい。
望まない結婚だとしても、自分の力で幸せを掴んで欲しい。

「魚月の幸せだけを願ってるから。それだけは忘れないでくれ…」
「……はい」

その言葉に嘘はない。
誰よりも魚月の幸せを願ってるから。
だから、どうか、幸せになってくれ。

魚月の涙は止まりそうにない。
俺の言葉に涙を流しながら返事をしてくれる。
出来るなら泣き顔ではなく笑顔が見たいが、無理だろうか…。

「最後ぐらいは…、笑顔を見たいんだが…」

両手で涙を拭いながら顔を覆う魚月。
俺のために涙を拭って笑顔を見せてくれようとしているが、溢れる涙をどうにも止められないでいるようだ。
とめどなく溢れる涙が魚月の頬や手を濡らしていく。

「だ、だめ…。涙が…、止まらなくて…」
「魚月…」
「ひっく…、ひっ、ごめんなさ…っ」





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