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せめて、今夜だけ…
第16章 泡沫に泳ぐ魚
「魚月…、な、つき…っ」
きっともう…、魚月の名前を呼ぶことはない。
だから、一生分…、魚月の名前を呟いた。
魚月の事を、欠片も忘れないように。
「魚塚さん…っ」
「――――――っ!」
もう、魚月が俺の名前を呼ぶことはない。
俺の名前を呼ぶ魚月の声を聞くこともない。
もう2度と…、魚月に触れる事もない…。
――――――ふわりと、鼻先に感じた冷たいもの。
空を見上げると雪がチラつきだしていた。
「また雪か…」
行為を終えた後、これ以上魚月に触れていては離れられなくなってしまう。
俺はシャワーを浴びると早々に部屋を後にした。
ホテル代をテーブルに置き、ベッドでぐったりしている魚月を置いて部屋を飛び出した。
『じゃあ、元気でな…』
部屋を飛び出る際に、ベッドに寝転ぶ魚月にそう呟いたが、その声が魚月に届いてるのかどうかはわからない。
魚月はぐったりしていて俺に背中を向けたままだったし、もしかしたら眠ってしまっていたかも知れない。
俺も…、振り返れないままでいた。
もし目が合ってしまったら、あの魚月の瞳に見つめられてしまったら、今度こそ魚月を手放せなくなってしまうから。