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せめて、今夜だけ…
第16章 泡沫に泳ぐ魚
ホテルを飛び出した俺は、先程魚月と歩いた海辺近くの散歩コースをふらふらと歩いていた。
こっちは自宅に帰るには逆方向だが、今は何も考えられないでいる。

ただ、何と無く…、海が見たくなったのだ…。

風に乗って潮風が運ばれて来る。
さっきまで熱かった体が一気に冷えていく。
体だけじゃなく、心までもが冷えていく。
波音を聞きながら、宛もなくふらふらと歩く。

今が何時かはわからないが、周りを見れば恋人達が腕を組みながら歩いている。
再び舞い出した雪を喜んでいるように。





俺はただ、魚月の幸せを願っている。
魚月の笑顔が2度と曇る事がないように…、これから先、魚月の運命が幸せに満ちているように願っている。

誰よりも、魚月の幸せを願ってる…。
















幸せを…、願ってる…?













――――――――――っ!!



周りから、クスクスと嘲笑うかのような笑い声が聞こえる。
中には心配するような声も聞こえた。



「何あれ?酔っ払い?」
「うっわー…、ダッセ…」
「大丈夫かな?救急車呼んだ方が良くない?」









俺は、散歩コースのど真ん中で膝をついて崩れ落ちていた。
他の通行人の迷惑も顧みず、他人の目すら憚る事なく、その場に崩れ落ちてしまった。

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