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せめて、今夜だけ…
第16章 泡沫に泳ぐ魚
不思議に思いゆっくりと顔を上げると…
「…先輩?」
そこにいたのは、俺の体に雪が落ちないように傘を差し出した風間先輩だった。
「早く立ったら?他の人の迷惑でしょ」
先輩…?
何で先輩がここに…?
幻でも見てるのか?
先輩に促され力なく、ゆらゆらとした足で立ち上がった。
確かに、舗道のど真ん中で倒れていては他の人の迷惑だな…。
「何でここに先輩が…?」
「今朝会社で魚月さんと電話してたでしょ?ここのホテルで待ち合わせとか何とか…」
あー、そう言えば…、会社の屋上で電話してるところを先輩に見られてたな。
「それで、ずっと見張ってたんですか?俺と魚月をずっと…」
この道を通るかどうかわからないのに、この寒空の中、ずっと俺を待っていたのだろうか?
だとしたら凄い執念だな。
「そんな訳ないでしょ。さっき仕事が終わって、もしかしたらと思って来てみたのよ。そしたら、魚塚君が倒れてたから」
…なるほど。
どこまでが本当か嘘かはわからないが。
情けなく倒れてるところを見られたというのに、今はどうでもいい。
今更先輩の前でかっこつける事もない。
俺に近づき、俺の頭上に傘を差し出してくれる。
今、俺…、すっげぇ情けない顔になってるんだろうな。
今にも泣きそうなのを堪えて、嫉妬にまみれた嫌な顔をしてるんだろうな。