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せめて、今夜だけ…
第17章 人魚が残した猛毒
「お前のは冗談になってねぇんだよ。しかも元気付けるって何だよ…」

桐谷に心配されなくても俺は元々元気だよ。
呆れながらグラスを傾けた。
グラスの中の氷がカランッと音を立てながら溶けて行く。
ったく、桐谷は相変わらずだな。

「だって、ちょっと前のお前見てて痛々しかったもん」

「―――――…っ」

「激痩せして食欲もなさそうだったし、あんまり眠れてなさそうだったし」
「…そうだったか」




桐谷の鋭さに、俺は一瞬言葉を失った。
桐谷とは席も近いし、食堂で一緒に飯を食ったりもしてるし、俺を1番近くで見てる人間だ。
俺の変化に気づいても不思議ではない。

「何があったのかは知らねぇけど、元気になってくれてホッとしたよ」





魚月と別れたあの日から、俺の感情はどこか虚ろなままだった。
睡眠不足な上にアルコールの大量摂取。
不衛生な生活を続けたせいで体重は激減。
なのに、寝る間も惜しんで体に鞭打つように仕事三昧。

その甲斐あってか社長賞という名誉を得たわけだ。





魚月と別れてからもうすぐ半年が経とうとしている。
気づけば季節はすっかり初夏だ。

なのに、俺の心の中は、あの夜から止まっている。
最後に魚月を抱いたあの雪の夜から…。








唯一、変わった事と言えば…


「社長賞、おめでとう。由之」
「ありがとうございます、先輩」

風間先輩が俺の事を"魚塚君"ではなく"由之"と呼ぶようになった事だ。

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