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せめて、今夜だけ…
第17章 人魚が残した猛毒
「あ、お風呂も沸かしてあるから、後で入ってね」

俺がいない間に部屋の掃除をして、俺の帰りを待ち俺食事を作り、風呂まで沸かして…。
はたから見れば俺と先輩は夫婦のように見えてるのだろう。
でも、違う。
俺と先輩はそんな関係ではないし、深い関係にもなっていない。
ただ俺が、先輩の優しさに甘えているだけだ。

「そんなに毎日俺の面倒見なくても大丈夫ですよ。先輩だって忙しいでしょうし」

俺なんかの世話より、先輩にはやらなければならない事がたくさんあるはずだ。
市原グループのような大会社の秘書ともなれば忙しいはずだし、俺の世話で時間を割いてもらうのも心苦しい。
たまには先輩もゆっくりする時間が必要だ。

「あのさ、魚塚君」
「はい?」
「前から思ってたんだけど、その"先輩"って言うのそろそろ辞めてくれない?」
「え?…あぁ」

先輩にそう言われて俺はハッとした。

そう言えば、先輩と再会してからも昔の癖が抜けなくてずっと"先輩"って呼んでたな。
先輩後輩の関係は学生時代の話だし、社会人になった今、"先輩"なんて呼んでたら周りに誤解されてしまうな。

「すいません、気づかなくて…」
「ううん、別に怒ってるわけじゃないんだけどね」

さすがに周りにあらぬ誤解をされたら先輩に迷惑がかかってしまう。
それだけは避けなければならない。

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