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せめて、今夜だけ…
第17章 人魚が残した猛毒
「安西さん?」






「……………。」









しかし、俺の問いかけに対し、先輩は黙りこんでしまった。
目を伏せて、何かを考え込んでいるような様子だ。

あれ?俺何か変なこと聞いたか…?



「安西さん?」



「あ…、あの…、まぁ、着々とって感じかな…」


少し考え込んだ後に出てきたその台詞。
どこか棒読みっぽい下手な台詞。
あー、もしかして、俺に気を使ってくれてるのか?
間違った関係だったとは言え、俺は次期社長の婚約者に手を出してしまったのだから。



それより、式の準備が着々と進んでいるということに安心を覚えた。
何も問題はなく、俺達の関係がバレる事もなく、順調に進んでいるということに。

魚月は…、幸せになってくれるだろうと言うことに。

「すいません。変なこと聞いて…」
「ううん、全然大丈夫!」




あの夜、取って付けたような台詞で魚月にさよならを告げた。
綺麗事ばかりを並べて、身を切られるような辛さを感じつつも魚月の幸せを願いながら俺は魚月から身を引いた。
元々俺の出る幕なんかなかったのだから。

でも、今はただ、魚月の幸せを願いたい。
どうか、幸せになってくれ、と。
あんな事でしか魚月への想いを形に出来なかった。

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