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せめて、今夜だけ…
第17章 人魚が残した猛毒
「お願い…」




魚月を忘れたい…。
こんな辛い気持ち、早く忘れてしまいたい…っ。




「――――――っ!!」










俺は先輩の腕を掴むと強引にベッドへと引っ張った。
そのまま先輩をベッドに押し倒し、先輩の素肌に触れて行く。

「あ、ん…っ」

先輩の肌、めちゃくちゃ冷たい。
いくら夏だとは言えエアコンの効いてるこんな部屋で下着姿で待っていれば体も冷えてしまうだろう。

「由之…っ」

俺は最低だ。

今、先輩への気持ちを問われても多分答える事なんて出来ない。
なのに、先輩を犯してこの苦しみから逃げようとしている。
先輩の優しさを利用して魚月を忘れようとしている。

もしこのまま、本当に先輩を好きになれば、この苦しみから解放されるのだろうか。

真っ暗な寝室、廊下から差し込む明かりだけを頼りに、俺は先輩の首筋にキスを施して行く。
その時に、先輩の首筋からふわりと香る香水の香りが鼻をついた。

シャワーをしても、いつも使ってる香水の香りは落ち切れてないようだ。
それとも、風呂上がりに香水を吹き掛けたのか?
少しきつめの大人の女の香り。


魚月はこんな香りじゃなかったな。
もっと甘くて、まるで花のような香りだった。
香水じゃなくて髪から香って来ていたな。
香水じゃなくて、シャンプーの香りだった。



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