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せめて、今夜だけ…
第18章 彼方
「婚約破棄って何だよっ!?何でいきなり、そんな…っ」
「し、知らねぇよっ!俺だってついさっき聞いたんだし、第一ただの噂だし…」

桐谷が事の発端や詳細を知ってるはずがない。
なのに俺は桐谷の両肩を揺さぶりながら問い質した。

「どうしたんだよ、魚塚っ!」

市原社長のご子息…、翔太が結婚しようがどうなろうが本来なら俺には関係のない話しだ。
翔太が婚約破棄になろうが俺の人生には何の影響もないのだ。

本来ならそうなるはずなのだ。

自分達には関係のない話しなのに、ただの噂に目くじらを立てる俺を桐谷は不思議に思っている。
いや、桐谷だけじゃない。
興奮のあまり声を張り上げてしまって、部署中の奴らに聞かれたに違いない。
部署中の奴らがただならぬ雰囲気の俺に首を傾げている。

「だって、婚約破棄って…っ!何だよそれ…」



頭の中がぐちゃぐちゃで…、一体何が起こっているのかわからない。

「どうしたんだよっ!?とりあえず、落ち着けよ!」

両肩を掴んでいた俺の手をゆっくりと離して行く、が
これが冷静でいられるかよ…っ。

「悪い、桐谷…」

一瞬の間で俺の脳内も精神も混濁して行く。
もう、正常な考えなんて出来ない。

「俺、早退するわ…」
「はぁっ!?」
「部長にそう伝えといてくれ…っ」

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