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せめて、今夜だけ…
第18章 彼方
頭の中でいろんな疑問が浮かんでは消えて行く。
魚月に確かめたくても、前に使っていたスマホは既に捨ててしまっている。
あの雪の夜に、全てを終わらせたくて海に投げ捨てた。
今の新しいスマホには魚月の連絡先は入っていない。
連絡先どころか、魚月の痕跡すら残っていない。

だからと言って市原の会社に直接聞きに行く事も出来ない。
噂の真意を確かめようにも方法がないのだ。


「―――――っ」

あれこれと考えていた俺は、身体を焦がすような暑さに気付きハッとした。


……あぁ、やべぇな、会社を飛び出しちまった…。



気付くと俺は会社を飛び出していて、会社の近くの公園をふらふらと放浪していた。
婚約破棄の噂を耳にした瞬間、いてもたってもいられなくなってしまったのだ。

「あっち…」

季節はもうすぐ夏。
どうりで暑いわけだ。

額にじんわりと浮き出る汗。
額だけじゃなく、身体中汗だくだ。
照りつける太陽に焼かれるような暑さ。
暴走していた俺の理性は段々と冷静さを取り戻して行った。

「ハハッ、馬鹿みてぇ…」

婚約破棄?
そんなのただの噂に過ぎない。
正式な発表がないからそんな噂が立ってしまうんだ。
きっと今頃、魚月も翔太も仲良くやってるに違いない。
俺1人であたふたして、マジで馬鹿みてぇだ。

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