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せめて、今夜だけ…
第18章 彼方
その日、桐谷は部長に上手く伝えてくれたみたいで、部長からお叱りの電話はなかった。
無断欠勤紛いのことをしてしまったのだからと、そのままにするのも申し訳なかったので一応こちらから連絡は入れておいた。
明日からは普通に出勤しなくては…。
だが、今夜、先輩の話を聞いて普通にしていられるのだろうか?
魚月が婚約破棄をしたかも知れない…。
もしその噂が本当なら、俺は今まで通りにしていられるのだろうか。
魚月と別れたあの夜から、俺はずっと1人だったような気がする。
もう1度、俺はまたこの日々に戻れるのだろうか。
―――――――。
時刻は夜の21時。
先輩は今夜俺の家に来て話しをしてくれるというが…。
「はぁ…」
何をしてても落ち着かない。
食事をしようにもこんな状況の時に食欲なんて出ない。
読者をしてても、テレビを見てても、内容は頭に入ってこない。
何かをして時間を潰そうにも落ち着かない。
「…………。」
ソファーに座り、ただただ先輩からの連絡を待った。
静かな部屋に時計の秒針を刻む音が響く。
時計の秒針だけじゃない。
外から聞こえる電車の音、車の音、人の声。
いつもなら気にならない騒音が妙にクリアに耳に届いてくる。
今は一分一秒が長く感じる。