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せめて、今夜だけ…
第19章 欲心と懺悔
「魚月さんは――――」



先輩の唇が動くのが怖い…。
真相を聞くのが怖い…。
俯きながら語り出す先輩の言葉に耳を塞ぎたくなる気持ちと真実を知りたい気持ちと…。


「――――――――。」



心臓の高鳴りが最高潮を迎えようとしている。
頼むから耐えてくれ、俺の心臓。




「正直、私もよく知らないの」











――――――「は?」

先輩は軽く笑いながら俺にそう告げた。
意表を突かれた返答に俺は素っ頓狂な声を出してしまった。

「え?し、知らない…?」

知らない?知らないって何だよ…。
今までの重苦しい空気は何だったんだよ。

「確かに、婚約破棄っていう噂は流れてるみたいだけど。詳しい事は知らないの。私は最近翔太さんとは会ってないから」
「でも、社長とか…」
「社長も息子さん達の結婚の内部事情は詳しく聞かされてないみたい」

あんなに大々的に発表して知らないって何だよ。
でも、先輩はあくまで秘書という立場の人間。
市原グループのトップは翔太じゃない。
先輩はそこまで詳しく聞かされてないのだろうか。

「な、何だよ、それ…」

さっきまで張り詰めていて緊張の糸がぷつりと切れたように身体中の力が一気に抜けて行く。


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