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せめて、今夜だけ…
第20章 傷ついた鱗
「ハ、ハンカチ…」

ソファ脇に置かれた鞄を取り、中をガサガサと漁っている。
ハンカチで止血しようとしてくれてるんだろうけど…。
先輩が降りてくれたお陰で幾分体が軽くなった。

先輩は俺の目の前で焦りながらハンカチを探している。
口からいきなり血を垂れ流す俺を見てパニックになったのだろう。
鞄をひっくり返しながら必死にハンカチを探している。


くっそ、口の中が痛ぇ…。
勢い余って噛みすぎたかな?

ソファの背もたれに腕をかけ、痺れる体に鞭を打つように渾身の力で体を起こした。
いつまでも寝転んでたんじゃ格好が付かねぇ。

「だ、大丈夫ですよ…。はぁ、そんなに、深く、噛んでませんから…っ」

舌には激痛が走っているが、思ってた以上に呂律は回ってる。
喋れねぇほどじゃねぇな。
これぐらいの出血ならすぐに治まるだろう。

俺のその声に気付き、ハンカチを探すのを辞めた先輩。
ソファに腰かける状態になった俺を見て「しまった」という表情を見せた。

体を起こしたせいで血が口から溢れ出る。
顎を伝って俺の胸元に数滴の血痕が滴り落ちた。

「先輩…、何で…、こんな事…っ。はぁ…」

少し力を入れただけなのに、まるで身体中に鉛を付けられてるみたいに体が重い。
重労働させられた後みたいに疲れる。


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