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せめて、今夜だけ…
第20章 傷ついた鱗
「……………。」




そうだな。
今まで知らなかった。
身を引き裂かれる辛さも、胸を締め付けられる苦しさも知らなかった。
それを知ったのは、教えてくれたのは先輩じゃない。
こんな辛さを知ったのは、魚月に出会ったからだ。

誰かを本気で愛する辛さも、楽しさも、全部魚月が教えてくれた。


先輩に借りたハンカチを口に咥えながら襲い来る体の痺れに耐えた。
舌からの出血もだいぶ治まって来てるみたいだ。
先輩は諦めてくれたのか脱ぎ捨ててある衣類を着用しだした。
さすがに下着姿のままじゃこちらも目のやり場に困る。

「ここまでされたら、女の私でもさすがに引くわ」

あぁ、確かに舌を噛んでまで拒絶されたんじゃ立つ瀬がないな。
呆れたように笑いながら衣類を正して行く先輩。

「お褒めに預かり光栄です」

まぁかなり痛かったし、ある意味賭けではあったけどな。
舌を噛むなんて暴挙、1つ間違えば死んでたかも知れないのに。

「フラれついでにもう1つ、いいこと教えてあげるわ」
「?」

先輩は俺に背中を向けたまま服を着て、手櫛で髪を整えると、小さく俺に告げた。





「魚月さんと翔太さん、本当に婚約破棄したわよ」











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