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せめて、今夜だけ…
第20章 傷ついた鱗
「………っ」

いきなり捲し立てられるように怒られてしまった。
その勢いと内容に圧倒され、俺は訳もわからずポカーンとしてしまっている。

でも、これが先輩の優しさであり強がりなのだ。
そして、俺にこれ以上罪の意識を感じさせないようにしてくれているのだ。
それがわかった瞬間…

「ぷっ、くすくすくす…」
「ちょっ、何笑ってんのよ!」

あー、あんまり大口開けて笑うと舌の傷が痛む。
でも、込み上げる笑いを我慢出来ない。
さっきまでの威圧的な態度を取っていた先輩の顔がみるみる真っ赤に紅潮して行く。

「いや、だ、だって…っ。はははっ、あ、相変わらずだなぁ、と思って…っ」

先輩の口調、先輩の怒った顔、俺に言い放った言葉の内容も先輩らしい高圧的なもの。
男を手玉に取ったかのような内容だが、変わらない先輩に俺はホッとしていた。
そして、一気に笑いが込み上げてしまったのだ。

「あー、もうっ!バカバカしい!とにかく私は帰るから!明日、ちゃんと病院行きなさいよ!!」
「あはは、は、はい」

部屋を出ていこうとする先輩。
その背中を見ながら俺は心底感謝していた。
俺のしたことを許してくれた。
俺の心を楽にしてくれた。
俺の初恋の人。

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