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せめて、今夜だけ…
第21章 嘘と罠
でも、あの時と今では事情が違う。
あの時は魚月との別れ。
でも今は違う。

手を伸ばせば、魚月はすぐそこにいる。
誰に遠慮しなくても、魚月に触れていいんだ。
そう考えただけで今にも叫びたい気分だ。

魚月…。
魚月…っ。








―――――――が、しかし

スマホの画面を見て俺は溜め息を付いた。

「はぁ…」

時刻は既に退社時間。
スマホの画面を見ながら俺はあることに気づいていた。
先輩と最後に会ったあの夜から既に10日近く経過している。

「う、魚塚…、何かあったのか?」
「いや、別に」

不機嫌そうなオーラを漂わす俺を見て桐谷が軽く引いているのがわかる。
それもそうだ。
退社時間を迎え解放感を感じることはあっても気だるい溜め息をつく理由はないはずだ。
しかも、俺の周りには禍々しい不機嫌なオーラが漂っているのだから。

「じ、じゃあ、俺先に帰るわ!お、お疲れ」
「あぁ、お疲れ」

俺から逃げるように桐谷はそそくさと帰っていってしまった。
いつもなら飲みに行こうとか何とかうるせぇ癖に。
そんなに俺が怖いのか?

そりゃ不機嫌にもなるさ。
先輩からは何の連絡もないし、魚月の手がかりは一切得られない。
先輩の事情はわかってるし気長に待つつもりではいたが、待ってる時間がもどかしくて仕方ない。

一応、念のためにSirèneにも顔を出したが魚月が復帰してる気配もなかった。
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