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第21章 嘘と罠

心臓が激しく脈打つ。
あの時と同じだ。

あの時、魚月に会いたい一心でここまで来たあの冬の日。
あの時も、こうやって立ち竦んでいたら後ろから声をかけられて、振り向くとそこには…。


だが、そんな淡い期待はすぐに打ち消された。
だって、俺の名前を呼んだその声は…







「やっぱり！魚塚さんじゃないですか！お久しぶりです！」








俺の名前を呼んだその声の主は、男だったから。
だが逆に、俺はその男の顔を見て心臓が痛くなった。
振り返った先にいた男性。

こんな事って…。
俺の運もまだまだ捨てたもんじゃないなと思った。
これは…、悪運と言うんだろうか？






「何してるんですか？こんなところで」

俺の名前を呼んだ男が俺にゆっくり近づいてくる。







「――――――翔太さん…」

俺の名前を呼んだその男性は、俺が今１番会いたかった男。

市原翔太…。





ドックン、ドックン、ドックン…。







神様もやってくれんじゃん。
こんなところで翔太に合わせてくれるなんて。
神様の粋な計らいに心臓が熱くなり、沸騰した血液が身体中を巡っている。

頬笑む翔太に合わせてこちらも営業スマイルを返すが、足は武者震いで今にも倒れそうだ。