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せめて、今夜だけ…
第25章 水音
「あ…っ」




あった。
ここが、魚月の実家…。
魚月の実家を目の前にして、俺は足がすくんでしまった。
辿り付きたかった場所のはずなのに、今になって恐怖してる。


やっと…、やっと辿り着けた…。
魚月の実家。
安心したのか疲れからなのか、今にもへたりこみそうだ。

「はぁー…」

一息を着いた後、俺は中の様子を知ろうといろいろ考え出すが…。
どうする?
とりあえず、インターホンを鳴らすか?
でも、鳴らしたとしても何て言う?

つーか、この工場、今もちゃんと稼働してるのか?

よくよくちゃんと見てみると、木々に囲まれているせいか無数に散乱している落ち葉。
掃除をする人間がいないのだろうか?
インターホンらしきものもないし、門の看板もボロボロに錆びてる。
入り口らしきものは見えるが、人の気配はないし、しんっと静まり返ってる。

昔ながらの町工場と言ったところか。

勝手に入るわけにも行かないし、かと言ってここまで来て何もしないまま帰るわけにもいかない。

でも、やはり魚月はここにはいないのかも知れない。
婚約を破棄してしまい、融資も援助も打ち切られて、それで工場も潰れてしまったのかも知れない。

ボロボロになった工場を目の前にして嫌な考えが次々と浮かんでくる。
夜逃げ?一家離散?まさか、無理心中?

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