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せめて、今夜だけ…
第25章 水音
魚月は…、魚月はどこへ行ってしまったんだ?
やっと魚月の手がかりを掴めたのに、またしても振り出しに戻るのか?
やっと魚月に会えると思ったのに――――。






工場を前に、成す術もなく立ち往生してしまっている。
中を覗こうにも窓のようなものも見当たらない。
どうすればいいのかわからず途方にくれていると







「あの、うちに何かご用ですか?」








背後から聞こえた女性の声。








「――――――あ」

振り返るとそこにいたのは、水色の帽子と作業着姿、手にスーパーの袋を持った女性が立っていた。

この人、ここの工場の人間か?
作業着だし、今"うちに"って言ったし、恐らくここの従業員だろう。
じゃあ、この人に聞けば何かわかるかも知れない。

「あの、ここの工場なんですけど―――――」









そこまで尋ねた瞬間に、俺の心臓は更に高鳴った。
今俺に声をかけたこの女性。
帽子を目深に被っていたせいで気づかなかったが…。

ハッとした俺の顔を見て、作業着を着た女性も息を飲んだような表情を見せた。








「魚月…」
「う、魚塚さ…っ」









俺に声をかけて来たのは、魚月だった。











会いたくて会いたくて、夢にまで見た魚月が、今俺の目の前に立っていたのだ。

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