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せめて、今夜だけ…
第25章 水音
「な、何で…。何で魚塚さんが、こ、ここに…っ」
少し後ずさりをする魚月。
それもそうだ。
半年前に別れたはずの男が目の前にいるのだから。
しかも、教えてもいない自分の実家の前で。
魚月からすればホラー映画さながらだ。
――――――…っ。
ああ、ダメだな。
魚月に会ったら言いたいことや聞きたいことがいっぱいあった。
拒絶されたらどうしようとか、迷惑がられたらどうしようとか、ここへ来るまでにいろんな葛藤もあった。
フランスへ行くことも言わなきゃなんねぇし
あれだけ恐怖や迷いを感じてたのに…、やっぱりダメだ。
久しぶりに見た魚月の姿。
その姿を見た瞬間、頭の中が真っ白になってしまった。
もう、何も考えらんねぇ。
――――――――っ!!
「魚塚さ…っ、い、痛いよ…っ」
魚月の身体中の骨が折れるほど、会えなかった時間を埋めるように魚月の体を抱き締めた。
驚きのあまり魚月の手からスーパーの袋が落ちてしまった。
「痛い…、離して下さ…っ」
「会いたかった…」
ただ会いたかった。
さっきまでの迷いが飛んでいく。
ここが魚月の実家の前と言うことも忘れてしまっていた。