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せめて、今夜だけ…
第25章 水音
魚月…、魚月…っ!

今にも心が泣き出しそうだった。
嬉しくて、ずっと会いたくて…。
しかし、そんな俺の目を覚まさせてくれたのは

「う、魚塚さんっ!」
「――――あっ」

魚月の一喝だった。
我に返った俺は慌てて魚月の体から離れたが…。



……あ、やっべ。
魚月に会えた嬉しさで思わず我を忘れて魚月を抱き締めてしまったが、よく考えたらここは魚月の実家の前。
いくら森の中とは言え誰が見てるかもわからねぇのに。

「わ、悪い…っ」
「いえ、べ、別に…」

魚月を見た瞬間、頭の中が真っ白になってしまった。
つーか、聞きたいことや言いたいことが山のようにあったのに、何を暴走してるんだ俺は。
バカか!

途端に自分のしたことが恥ずかしくなり顔が一気に紅潮して行く。
だっさ…。

すると、魚月は地面に落ちた袋を拾うと、袋についた土を軽く手で払い

「ちょっと待っててください」
「え?あ、あぁ…」

そう言うと、俺の脇をすり抜けて工場の方へと走り去ってしまった。
工場の中へ入って言ったということは、工場はまだ稼働してるんだろうか?
魚月も作業着を着ていたし、潰れてはないようだ。

魚月の実家はまだ工場として稼働している。
それだけでも俺はホッとした。

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