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せめて、今夜だけ…
第25章 水音
すると魚月はクスッと笑うと、ゆっくりと空を見上げた。
何もかも諦めたかのような表情を見せながら。




「私は、魚塚さんが思ってるようないい子じゃないんですよ…」





涼しい風が吹き抜ける。
川の水面を揺らして、俺と魚月の間をすり抜けて行く。
まるで俺に「諦めろ」と言ってるかのようだった。

「愛なんかなくても、私にはお金が必要だったんです。両親の工場を建て直すだけの援助が欲しかったんです」




――――――――。

その言葉を聞いて、俺は何も言えなくなってしまった。
何であんな男と婚約したのかなんて聞くだけ野暮な話だった。

「最初、あの雨の日の公園で言いませんでした?」
「あ、あぁ…」

確かに聞いた。
あの雨の夜。
全てが始まったあの雨の夜の公園で…。
愛なんかなくても、両親を助ける為に結婚するのだと聞かされた。
あの時も、翔太は高圧的な態度で魚月と喧嘩してた。
嫌な男だとは思ってたが、まさかここまでとは。

「あんなおっきな会社の息子さんの不祥事を魚塚さんや誰かに相談する事も出来なくて…」

あの夜、魚月は覚悟を決めていたんだ。
何もかもを受け入れて、翔太と結婚すると。

しかし、そこまで覚悟を決めていたのなら婚約破棄をする理由なんかないはずだ。
何で大々的に発表した後に婚約破棄なんて事になったんだ?

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