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せめて、今夜だけ…
第26章 人魚と王子
魚月は来てくれるだろうか?
駅前のビジネスホテルはここしかなかったし迷うということはないだろう。
でも、魚月のあの様子からして、俺を見送ってくれる気はないのかも知れない。
今の魚月は、実家である工場を立て直すのでいっぱいいっぱいで、俺のことなんてもう…。

考えたくないが、嫌な予感が頭をよぎる。
魚月はあんな女じゃないと思っていた絶対的な自信も次第になくなっていく。

魚月はもう、俺のことなど…。














運命を変える引鉄なんて一瞬で引ける。
それは突然、何の前触れもなく訪れる。
寝転んだまま、何時間経ったかはわからない。
魚月はもう…、と弱気になっていた時だ。













――――――ピンポン…。

「………っ!」












ぼんやりと天井を眺めていると、突然聞こえたチャイムの音。
その音が俺の鼓膜を揺らす。
そして、俺の心臓をも揺らしていく。





「……っ!」

ガバッと体をお越し慌ててベッドから飛び降りた。
今チャイムを鳴らした訪問者を迎え入れるために。


ドアを開かなくてもわかる。
ルームサービスの類いではない。
ドアの覗き穴から覗かなくてもわかる。
確認なんかしなくても、このチャイムは…。



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