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せめて、今夜だけ…
第26章 人魚と王子
訪問者の顔を確認することなく、俺は部屋のドアを勢いよく開いた。
息が詰まりそうな時間を過ごした心と体が一気に軽くなっていくのを感じる。




―――――――ガチャ…ッ!




ドアを開くと、そこにいたのは




「こんばんわ…」
「魚月…」




そこに立っていたのは魚月だった。






やっぱり、魚月は来てくれた。
揺らいでいた自信が確信に変わった瞬間、俺は安堵のあまり泣き出しそうになってしまった。

ばつの悪そうな顔で俯く魚月。
仕事帰りなのか、先程の作業着とはうってかわってジーンズにTシャツ、髪もひと纏めにしたラフな姿で現れた。

「入ってもいいですか?」
「どうぞ」

俺は部屋のドアを全開に開けて魚月を招き入れた。
魚月を断る理由なんてありはしない。

「お邪魔します」

俺の脇をすり抜けて部屋の奥へと入っていく魚月。
Sirèneで働いていた時とは違う…。
メイクもそこまで濃くないし、あの頃みたいな甘い香りもしない。
だけど、それでもいい。
素顔に近い魚月は、Sirèneで会ったときはまた違う美しさが漂っていた。

魚月を招き入れた後、俺は部屋のドアを閉めた。
部屋の中へ入ってきた魚月に目をやると、昼間と同じで気だるそうな表情を見せている。

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