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せめて、今夜だけ…
第26章 人魚と王子
「俺の事を忘れるつもりだったのか?俺との事はなかった事にするつもりだったのか?」

容赦なく浴びせる質問。
それは、先程の一方的な別れの言葉への八つ当たりのようなものだ。

だけど、俺は知ってる。





魚月はいつも、自分1人で何もかもを背負い込む女だ。
不器用で、その癖変に真っ直ぐで、頑固な女だ。





「俺から逃げるつもりだったのか?」

あの時の悔しさが沸々と込み上げてきた。
魚月が婚約破棄をしたと聞かされたあの時。
どうして俺に黙ってた?
どうして俺の前からいなくなった?
俺がどんな思いで毎日を過ごしていたか…。

「答えろよ」
「………っ」

嘘を付くのが下手なくせに、その場で思いついたかのような悪態を吐くから俺に言いくるめられるんだ。
魚月はいつだってそうだ。

ゆっくりと、魚月の背中に近づいていく。




なんか、もう…、マジで止められそうにない。
ここ数ヶ月、俺がどれだけ我慢して来たと思ってるんだ?

「ほら、さっさと答えろよ」

魚月のすぐ後ろに立ち黙って立ち竦む魚月の背中に答えを求めた。
真後ろに俺の気配を感じたのか魚月の体が強張っているように見えた。

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