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せめて、今夜だけ…
第26章 人魚と王子
「魚月…」
「そ、そんなの私の勝手じゃないですかっ!私が誰と別れようと結婚しようと魚塚さんには何一つ―――――っ」






あぁ、あの時と一緒だな。
魚月が翔太との結婚の意思を固めたあの夜。
魚月の怒鳴り声を聞いて、俺の理性がぶっ飛んだあの夜。

最後ぐらい優しくしてやりたかった。
最後ぐらい喧嘩なんかしねぇでいたかったな。






―――――「やだっ!離してっ!!」

俺は魚月に怒鳴られた瞬間、魚月の腕を引っ張りベッドに押し倒していた。

「な、何を…っ」

シングルサイズのベッドは、俺と魚月の重みでギシギシと鈍い音で鳴いている。

「それがお前の本心か?」
「――――――っ!」

それが魚月の本心だというなら、半年前のあの夜の涙も嘘だったのか?
俺と過ごしたあの日々も嘘だったのか?

いや、違う。
俺は忘れられない。
忘れられるはずがない。

魚月の事を忘れた瞬間なんて、1秒足りともなかったよ。

「誰が信じるか…。嘘の下手なお前の言葉なんか――――――」

ここはラブホテルとは違う。
いくら人気が少ないとは言えビジネスホテルだ。
魚月の悲鳴を聞いて誤解されてはまずい。
魚月の声を封じるかのように魚月の唇に自身の唇を重ねた。


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