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せめて、今夜だけ…
第26章 人魚と王子
悪いが、俺だって優しい男じゃない。
魚月の強がりや嘘にわざと騙されてやるような優しい男じゃない。
このまま、魚月の嘘に騙されて何もないまま帰れるわけがない。
やっと捕まえた魚月を置いて、フランスになんか行きたくない。

「に、逃げるとかそんなんじゃ…」
「何の連絡もなしにいなくなって、俺が何も感じなかったとか思うのか?」

魚月のTシャツを一気に捲り上げ、あらわになった胸元に手を伸ばした。
少し痩せた魚月の体が痛々しく感じた。

「や、やだ…っ!大声出しますよっ!」
「好きにすればいい…」
「はっ?」

さっきは大声を出されてはまずいと思ったが、今はどうでもいい。
魚月が大声を出して誰かがすっ飛んで来たとしても、俺は魚月の口から本音を聞き出すためにここまで来たんだ。

「あー、もし強姦罪で捕まったら会社はクビだな。そしたらフランス行きもなくなるかもな」
「な…っ」

それもアリかも知れないと思ってしまってる辺り、俺は相当にイカれてるな。
魚月を抱いて社会的抹消になるなら本望だ。

「それに、もしそうなれば、俺に失うものなんか何もなくなるんだしな」

魚月の瞳が見る見る恐怖に怯えて行く。
俺の出発を祝うつもりが、まさかこんな事になるなんてな。
この部屋に来たことを後悔してるだろうな。

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