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せめて、今夜だけ…
第5章 恋心
「あ―――――」

昨日、魚月と会ったドラッグストア。
魚月はシェービングコーナーにいた。
女性用の剃刀もあったが、魚月が手に取ってたのは明らかに男性用の替刃。
何で女性の魚月がそんなものを買ってたんだ。

「…………。」
「ん?」

一瞬、魚月の顔が戸惑ったように見えた。
何か…、言葉に詰まってる感じがするが。

「あれは…、弟用ですよ。たまたま家に遊びに来てて、それで」
「弟?」

一瞬戸惑った魚月の顔は、またすぐにいつもの笑顔に戻っていた。
言葉に詰まったような感じがしたが、俺の気のせいだったか?

「弟がいるのか?」
「はい。女の一人暮らしの部屋に男性用の剃刀や替刃なんて置いてないですもん」

あー、それでか。
つーか、魚月は一人暮らしか。
家はあのドラッグストアの近所とか言ってたな。

「俺は一人っ子だから羨ましいよ」
「そ、そうですか…?」

ガキの頃、仲の良かった友人達には弟や兄がいて、兄弟喧嘩したり一緒に遊んだり、畠から見てても楽しそうで、よく羨ましく思ったものだ。
口では憎まれ口を叩いたりもしていたが。

俺の家は両親が共働きで、家に帰ってもいつも1人で留守番をさせられてた。
友人は多い方だったし、よく家に遊びに来てくれていたから寂しくはなかったが、それでも兄弟のいる友人が羨ましかった。



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