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せめて、今夜だけ…
第27章 海底、奥深く…
あぁ、わかっていたよ。
魚月はきっと、俺の申し出を断る。
俺も、魚月の答えはわかっていたよ。
だけど、聞かずにはいられなかった。
たった一縷の奇跡を信じたかった。
「―――――そうか…」
心臓が痛い。
さっきまであんなに激しく魚月を抱いていたのに、今はこんなにも魚月が遠く感じる。
魚月が俺を断る理由も何と無くわかっている。
魚月は、自分の大切なものを必死で護ろうとしている。
「うちの実家はまだまだ不景気で…。父と母を置いてはいけませんよ…」
「あぁ、そうだな…」
魚月の故郷に来て、作業着姿で両親の仕事を手伝ってる魚月の姿を目の当たりにしたのだから。
翔太と別れたのだから、これからは融資も援助も受けられないだろう。
あんな姿を見せられて、強引にフランスへ連れて行くことなんて出来やしない。
「それに、私がそばにいたら…。魚塚さんに迷惑がかかります…」
「……翔太の事か」
これからBijouxと市原グループは手を組む事も多くなるだろう。
市原グループのご子息の元婚約者が俺のそばにいるなんて可笑しな話だし。
ま、翔太は俺の顔なんてもう見たくないだろうがな。