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せめて、今夜だけ…
第27章 海底、奥深く…
魚月の事なら何でも知ってる。
魚月の考えてる事なら全てわかる。
だから、この返事も魚月らしい理由だと思った。

でも…

「魚塚さ…、痛いです…」

魚月に触れる指に力が入る。
頬に爪が食い込むぐらいに。

「魚月…」







大切なものを必死に護ろうとする。
俺はそんな魚月の姿が好きだった。
信念を貫き通そうとする魚月が好きだった。
だから、魚月の返事も受け止めるつもりだった。
ここで俺が無理を言えば魚月を困らせてしまうだけだ。

「魚塚さん…」









「愛してる…」











バカみたいだろ?
まるで欲しい玩具を我慢してるガキみてぇだな。
いや、子供みたいに…、ただ無心に欲しい欲しいと喚く事が出来ればどれだけいいだろう。
ただ無邪気に、周りの事など気にせず、欲しいものだけを欲しいと言えればどれだけ楽だろう。

もう、俺達を邪魔するものは何もないはずなのに
俺はまた、魚月を諦めるしかない。
あの冬の夜のように、唇を噛み締め、身を引き裂かれるような辛さに耐えなければならない。

「愛してるよ…」

自分のボキャブラリーの乏しさが嫌になる。
魚月には他に伝えたい事がたくさんある。
フランスに行ってしまえば、こうして話すことも、触れることも出来なくなるのに。



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