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せめて、今夜だけ…
第28章 満月と魚
俺のその台詞に魚月は絶句してしまった。
それこそ、口をぽかんと開けて、まるで幽霊でも見るかのような目付きで。

「や、や、やめた…?」

あぁ、だめだ。
魚月の顔見てたら、今にも吹き出しそうだ。

「あぁ、辞めた。スッキリした!」






そう。
俺は魚月からフランス行きの背中を押された。
フランスには行くつもりはあった。





でも、フランスに魚月はいない。




そう思った瞬間、俺の心は決まったんだ。








「や、や、辞めたぁぁぁっ!?」
「大声出すなよ。親に聞こえるぞ?」

魚月がいないなら、フランスになんか行きたくない。
魚月を選ぶことを許されない会社なら欲しくない。
地位?名誉?魚月が手に入らないなら、そんなものいらない。

そう思ったら、何の迷いもなく退職届を書いていた。

「な、な、何考えてるんですか…?Bijouxなんて凄い会社に勤めてたのに…。フランス行きも名誉な事だったんでしょ?」

へぇ。
家具に興味もない魚月でも一応はそういう目で俺の会社を見ててくれたのか。
初対面の時は興味ないって顔してたのに。

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