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せめて、今夜だけ…
第1章 ルール
この女は、数週間前に会社帰りに立ち寄ったバーで俺に声をかけて来た。
所謂逆ナンで知り合った女だ。
逆ナンなんてして来るくらいだからこちらからの夜の申し出にもすぐに応じた。
性欲を満たしたいなら風俗にでも行けばいい話だが、いつ何時にでも呼びつけられる相手の方がこちらも都合がいい。

俺から出した条件は、ただ性欲を満たさせてくれればいい。
それだけだ。

だから、こうして唇を求めて来られたところで応じるつもりはない。

「あぁぁっ、ダメ…!イッ、イクッ…」

「―――――――っ!」


この女とも今日までだな。
俺の心まで求め出したら終わりだ。

女の爪が俺の背中の皮膚に食い込んだ。
一瞬の快楽も、その痛みが冷静さを取り戻させてくれた。
女の絶頂を見つめながら、俺は冷静に頭の中でそんな事を思っていた。

体だけの関係が1番楽だ。
誰かと深い関係になりたくない。
この女だって、体だけの関係でいいと言っていたのに。
女というのは、1度体を重ねると情が湧いてしまうようだが、俺にはその感覚はわからない。
いや、多分一生わからないだろう。

自分でもわかっている。
俺の心は、氷点下並みに冷えきっているということを。







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