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せめて、今夜だけ…
第5章 恋心
「あ、あぁ…、そう、か…」


婚約者…。
その言葉を聞いただけで、またもや心臓がズキッと痛みだした。
魚月とは距離を取ってベンチに座っていたが、今にも目眩で倒れそうだ。

「会話的にそうじゃねぇかとは思ってたけど」

"家庭に入って欲しい"だの"僕の家の名"だのと聞こえてたし…。
恐らく結婚間近だろうというのは容易く想像出来た。

「け、結婚前から喧嘩かよ…。まぁ、喧嘩するほど仲がいいってやつか?」



らしくもなく、声が上擦って震える。

何で、俺はこんなに震えてるんだ?
この震えは、寒さだけじゃない。





「でも、残念ながら…、愛情なんかないんです」






「は?」

魚月のその言葉に、思わず変な声が出た。

いや、意味がわからねぇ。
愛情があるから付き合ってるんだろ?
愛情があるから結婚するんだろ?

「いや、今、婚約者って…」
「愛情ないのに結婚するんです。最低でしょ?」

まるで壊れた玩具のようにクスクスと笑う魚月。
自暴自棄になってるのがわかった。
その姿が、俺から見ていても痛々しい。

「私の実家、小さい工場なんです。いろんな建物に使うネジを作ってるんです」



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