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せめて、今夜だけ…
第5章 恋心
そこまで話を聞いて、俺は心の中で思っていた。
「お人好し過ぎるだろう」と。
確かにそれで両親の工場は守れるかも知れないが、魚月の幸せはどうなるんだ。
好きでもない男との結婚なんて、普通は嫌だろう。

魚月は、そこまで完全に割り切れるような性格ではないだろう。

「まぁ、援助もしてくれるっていうし、愛情なんか後付けで、そのうち情ぐらいは沸いて来るかなーと思って。ちょうど私もフリーだったし、婚活とかも面倒だったし、ある意味私も玉の輿だし、お見合い写真見る限りそこそこイケメンだったし」

アハハと笑いながら、空を見上げながら坦々と語る魚月。
まるで他人事のように話しているが、それは魚月の精一杯の強がりだろう。

「でも、実際会って見たら…、今でいうモラハラってやつで、女性には仕事を辞めて欲しいだの、家庭に入って欲しいだの。子供は何人産んで欲しいだの、両親との同居だの、私の意思なんか全然聞いてくれなくて」

まぁ、さっきの喧嘩口調を聞いてる限りそんな気がする。
今時珍しい亭主関白タイプだなとは思ってた。

「結婚だって、私が好きなんじゃなくて、次期社長が独身のままじゃ世間体が悪くなるから適当な女性と、だそうです」

会社を背負う社長ともなると、いろいろあるんだな。


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